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雨戸の隙間から洩れる灯りに安堵

20年ほど前に、Gさんという70代の男性の家に伺って、パソコンを教えていたことがあった。

Gさんは苦労して働き、ようやく家を建てることができたと喜んだのもつかの間、すぐに、奥様が亡くなり、以来10年間ほど一人暮らしだとおっしゃっていた。とても手先が器用な方で、家事・料理・裁縫などは主婦顔負けの腕前だった。

そのGさんが一番うれしそうに、そして少し寂しそうに語られるのが息子さんの話だった。

門真の大会社の偉いさんに出世して、門真に家を建てたので、もうこの家は継がないとのことだった。

この息子さんの思い出話をよく語られていたので、私はGさんの子どもさんは息子さんがお一人だと思っていた。

その後、Gさんは歳を取られて年賀状だけのやり取りになってしまったが、Gさんの家の前を通るたびに、お元気だろうかと気になっていた。

ある時、家の前の道で手押し車を押して歩くGさんに出会ったので、近況を尋ねると、身体が不自由になったので、介護サービスを利用して暮らしていると言われた。

その後、ほとんど屋外では姿を見かけることがなくなったが、大きなお庭の前栽はきれいに手入れされていたし、夜には電気の灯りが灯るので、それでGさんのご無事を確認していた。

数年経ち、夜に灯りが灯るが、前栽が少しずつ荒れ果ててきたように感じていたある夜、障害をお持ちなのか、装具をつけた体の不自由なお方でGさんによく似た男性がGさんの家に入っていくのを見かけて声をかけた。

「以前、Gさんにパソコンをお教えしていた近所の者ですが、Gさんはお元気でお過ごしでしょうか?」 と。

すると、「父は数年前に亡くなりました。」と答えられたので、「ではあなたは門真にお住まいの息子さんでいらっしゃいますか?」と尋ねると、「それは兄で、私は弟です」と答えられたのでびっくりした。

一人息子さんではなく、御兄弟の息子さんがいらっしゃる話など、Gさんから一度も聞いたことがなかったからだ。

なぜ、Gさんがもう一人の息子さんのお話を一度もされなかったのか、私にはわからないが、何か事情がおありだったのだろう。

以後、夜のウォーキング時に家から洩れる電灯の灯りで、この少し体の不自由な息子さんがお元気でお暮しかと見守っていたら、最近、夜に全然灯りが洩れてこないことに気が付いた。雨戸が閉まっていない部屋の方から、灯りが洩れていないかと、川を挟んだ家の前の道をうろうろしたり。(((^^;)

庭の前栽は伸び放題で、昼も雨戸が閉まったままだ。玄関先には車いすが置いてあり、その向きが何日も変わっていない。置きっぱなしという感じだ。
暗がりの中、目を凝らしてみると、夜も雨戸が閉まったままで、玄関の電灯も付いていなくてあたり一面、真っ暗だ。

もう長い間こんな状態だったので、施設に入所されたのだろうかと思っていたら、昨夜、雨戸が少し開いて、電灯の光が洩れていたので、まだこの家にお住まいなのだと安堵した。
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家に拘るつもりはないが、この家の建っているこの土地にはGさんの魂と思い出が宿っている。

20年があっという間に過ぎ去ってしまったが、家の前の道を通るたびに、20年前のGさんを懐かしく思い出す。






by dande550213 | 2023-06-26 16:58 | 雑感