(ロ)僕もわからない。
前日の夕方、ハナはソジンを励ましていた。
「自分を産んだ父親でさえ、救いに来てくれなかったんだ。だから、俺は誰を信じたらいいのだ。俺は誰も信じていないんだ」と叫ぶソジンに、自分は15年前に自殺しようと天使の橋に来ていたソジンを毎晩見守っていたこと、何度も疑って苦しまないで自分を信ずれば良いのだ。そうすれば世の中に怖いものは無くなるという父の教えを伝えながら、ソジンを励ました。
しかし、ソジンは自分を信じることすらできずに、失踪してしまった。
自分は実の父親からも見捨てられたと知らされた時、ソジンはもう自分以外は信じまいと決心したのだろう。しかし、心の奥底ではカン博士だけは信じていたのかもしれない。カン博士を信じて、治療に希望を抱いていたのだろう。
が、そのカン博士がもしかしたら、自分の信頼を裏切り、自分を攻撃する裏幕だったのかもしれないという疑いを払しょくできないソジン。
さらに、自分が目をそらせてきた事実、今はもうそれが何だったかすら思い出せなくなるほど、意識下に覆い隠してきた過去の秘密が暴かれようとし始めている恐怖。
ソジンはこの2つの不安から、逃げ出したくなったのだろうか。
秘書は言う。
たぶん、これがDIDの本質なのではないだろうか。
自分の命を守るために、苦しんでいる人格を失踪させる。
別人格を表に立たせて、苦しんでいる自分は一時的に避難する。
私にはよくわからないが・・・。
ただ、ここで私が興味深いと思ったことは、DIDでありながら、これがソジンの初めての失踪だということ。
DIDでありながら、約15年間、ソジンは一度もロビンに逃げてはいなかったのか、と思った。