ほんの20年ぐらい前までは、想像もできなかったことだ。
生まれてこの方30歳ぐらいまでは、
私は、耳飾りをしている日本人の男の人の姿を見たことがなかった。
アクセサリー、特に耳飾りや首飾り、腕飾りなどの装身具は、
美しく装うための道具としての美的機能しかないと、何となく思い込んでいた。
だから、昨今の男の人が耳飾りをつけるようになった背景には、
「男も美しくありたい、美しくあることに価値がある」とする
現代の「ユニセックス化」が根底にあるからなのだろう・・・と思っていた。
「男がアクセサリー」は、日本では新しい風習だと思い込んでいた。
先日(8/16)の日記で、「チンギス・ハーンの時代の男性頭髪」について書いたが、
あのDVDを観て驚いたのは、
“男が頭頂部を剃って、辮髪にする”様々なバリエーションだけでなく、
あの時代の支配者階級の男が耳飾りをしている姿。
アクセサリーといえば、
西洋の史劇では、支配者階級の男が耳飾りをしている姿を、
私は今まで見たことがないような気がするのだ。
「モリエール」とか「王は踊る」とか「ジャンヌ・ダルク」とか「エリザベス」とか「ハムレット」とか、
「恋に落ちたシェークスピア」とか「仮面の男」とか「真珠の耳飾りの少女」とか、
「ブレイブ・ハート」とか「グラディエーター」とか「トロイ」とか「ベン・ハー」とか「十戒」とか・・・などなど、注意して観ていたわけではないから、不確かだが、どうも男は耳飾りをしていなかったような気がする。
西洋史劇で特徴的だと私が思うのは、「男の指輪」、時代が下がると「かつら」で、
絵画を観ても、どうも西洋の昔の男は耳飾りをしていないように思うのだが、どうだろう。
もし、男の耳飾りに地域差があったとしたら、おもしろいと思う。
“男が頭頂部を剃って、辮髪にする”のも、地域差がありそうな気がする。
中近東はよく知らないが、
チンギス・ハーンのDVDでは当時のイスラム世界も登場するので楽しみにしている。
ところで、聖書に次のような言葉がある。
1:9 先にあったことは、また後にもある、先になされた事は、また後にもなされる。日の下には新しいものはない。
1:10 「見よ、これは新しいものだ」と/言われるものがあるか、それはわれわれの前にあった世々に、すでにあったものである。
(伝道の書 口語訳)
私が新しい風習ではないかと思っていた最近の「日本の男の耳飾り」、
実は、縄文時代から古墳時代の終末、7世紀の終わりぐらいまでは、
男も耳飾りをしていたそうだ。
耳飾りだけでなく、首飾りや腕輪などの装身具を、女と同じくらいか、それ以上に。
もちろん、最初は一部の支配者階級だけだったそうだが、
最後には、農民の男たちでさえ、金の耳飾りや首飾りなどをするようになっていたと言う。
それが日本では、突如として、アクセサリーを身につける風習がなくなったという。
603年に聖徳太子が冠位十二階を定めて、冠や衣服の質と色が、
王侯貴族や役人の位を示すことになったので、
アクセサリーで身分や地位を表す時代が過去のものになり、
世界でも珍しいアクセサリーの無い時代がその後、1100年間続くのだと言う。
これは世界のアクセサリーの歴史でも例がないことだそうだ。
そういえば、テレビの山ノ内千代さんも、
ガラシャ婦人もねねさまもアクセサリーを身に付けていない。
こういう長い時代があったから、
私は「男の耳飾り」にギョッとしたのだということがわかって、興味深かった。
※アイヌ人はアクセサリーをする風習が続いていたようで、
江戸後期には、チンギス・ハーンのDVDに出てくるような耳飾りをしている
18世紀のアイヌの指導者の肖像画がある。
※以上のお話は、春成秀彌氏の『古代の装い 歴史発掘④』(講談社)を参考にしました。
とても斬新な研究で面白いです。