本の中に書かれている日本語の単語を一つずつ、「これ、スペイン語で何て言う?」と尋ねた。
日本語の単語の意味が本当にわかっているのか、確認してみようと思ったのだ。
彼の説明で、印象的だった単語は、「すみれ」。
彼はこの単語の意味を「guardería(日本語で、託児所・保育園)」と答えた。
彼は日本に暮らして5年近くになるが、最近は日本人の子供ですら、本物の「すみれ」の花を見る機会はほとんどないだろうから、彼も、きっと実際の「すみれ」の花を見たことはないだろう。
もちろん、実物を見なければ、言葉と意味がセットで覚えられないのではない。本で勉強することもできるから。
彼が頭の中に、「すみれ」という文字の意味を「guardería」とインプットした背景を考えてみた。
彼が「すみれ」を「guardería」と結びつけて理解するには、彼がよく行く保育園に「すみれ」という日本語が看板のようにひらがなで書かれていたとか、保育園の名前が「すみれOOOO」だったとか、託児所の中の部屋(クラス)の名前が「すみれ」だったとか・・という可能性が考えられよう。
しかし、彼自身は小学生になってから来日しているので、彼が日本の託児所・保育園に行く機会はないはずだと思った。彼には0歳児の弟がいるのは知っていたが、まさかこの弟が託児所に入っているなんて、思ってもみなかったから、もしかして彼が読んだ漫画の一場面にでも託児所と「すみれ」を結びつけるようなシーンがあって、そうインプットしたのかしら・・・とも思った。(*彼は「日本語の多くは漫画から覚えた」と言っていたから)
それから3ヵ月後、ひょんなことから、乳飲み子を抱えた彼のお母さん(ペルー人)は日本の会社で働いていて、彼の弟が託児所に入っていることを知った。彼は日本の保育園へ行く機会があったのだ。きっと彼は弟の入園式か何かで日本の託児所へ行き、そこで「すみれ」の文字を目にして、「すみれ」という日本語と「guardería託児所」を結び付けたのではないだろうか。
この彼が、私の電子辞書の和西辞典で一番最初に確かめた日本語の意味、
それは「ばか」だった。
きっと彼は日本人の友達から「ばぁ~か!」と言われて、馬鹿にされた経験が何度もあるのだろう。